フライバック・クロノグラフという選択
時間を測る、という行為は不思議なものです。
私たちは普段、時計を「今何時か」を知るために使っていますが、
もうひとつ、時計が担ってきた大切な役割があります。
それは、ある瞬間から、次の瞬間までを測ること。
始まりと終わりがあり、
その間にどれだけの時間が流れたのかを知る。
クロノグラフは、まさにそのための機能です。
一般的なクロノグラフでは、
計測を止め、針を戻し、もう一度スタートします。
しかし、時間を区切りながら連続して測る場面では、
その一手間さえ省きたい状況がありました。
そこで生まれたのが、
計測を止めることなく次の計測へ移れる
フライバック・クロノグラフという機構です。
一般的なクロノグラフは、
スタートして、止めて、針を戻し、もう一度スタートする一方、
フライバック・クロノグラフは少し違います。
計測中にボタンを一度押すだけで、
針は瞬時にゼロへ戻り、そのまま次の計測を始めます。
止める、戻す、始める。
その三つの動作を、ひとつにまとめてしまった仕組みです。
これは「早く操作できる」ためというより、
操作に迷わなくていいための機構だと言ったほうが正確かもしれません。
考える余地を減らす。
それが、フライバックの本質です。
↑こんな飛行機が空を飛んでいた時のお話。
この仕組みが必要とされた背景には、
人が当たり前に空を飛ぶようになった時代ならではの事情がありました。
航空機での飛行では、
出発から到着までを一度に測るだけでは足りません。
一定の区間ごとに、
どれだけの時間がかかったのかを把握する必要がありました。
ひとつの区間が終われば、
次の区間はすぐに始まります。
針を止めて、戻して、また動かす。
そのわずかな手間さえ、
減らす意味があった時代です。
ここで大切なのは、
出来事そのものではなく、
時間を「連続した区間」として測る必要性が、確かに存在した
という事実です。
↑こちらも1930年代の飛行機のコクピット。アナログな計器類が並ぶ。
↑関東の航空図。ウェイポイントと呼ばれた空のチェックポイントが点在する。
その考え方は、
現代のスポーツにも、そのまま当てはまります。
たとえば陸上競技。
1500メートル走では、
ゴールのタイムだけでなく、一周ごとのラップも重要になります。
一つの区間が終われば、
次の計測は、もう始まっています。
モータースポーツも同じです。
レースでは、周回ごとのラップタイムが積み重なり、
全体の結果を形づくります。
どちらにも共通しているのは、
「止めてから、次を測る」余裕がないということ。
必要なのは、
迷わず次の計測へ移れることです。
フライバック・クロノグラフは、
まさにそのために生まれた仕組みだと言えるでしょう。
周回タイムを記録、表示するSEIKOのトラックタイマーシステム(二段表示タイプ)
インディアナポリスで行われるインディ500では、200周を誰よりも速く走りきらなければならない。
フライバックは、
もはや特別な環境でしか使われない機構ではありません。
私たちの生活は、
気づかないうちに「区切られた時間の連続」でできています。
仕事の合間、移動時間、運動の記録。
その一つひとつは短くても、途切れずにつながっています。
だからこそ、
一度止めてから考えるよりも、
自然な流れのまま次へ進める仕組みには、今も意味があります。
↑WINGイオンモール白山店で現在見ることができるフライバック、2本をご紹介。
フライバック・クロノグラフは、
ひとつのスタイルに答えを求める機構ではありません。
スポーティなケースと視認性の高い文字盤で、
現代的な道具としての機能美を体現している
ノルケイン。
一方で、端正なプロポーションとラグスポのデザインの中に、
同じフライバック機構を自然に溶け込ませている
ボーム&メルシエ。
どちらも、フライバックという合理的な仕組みを共有しながら、
その表現は大きく異なります。
スポーツウォッチとしての明快さか、
あるいはドレスにも通じる静かな佇まいか。
同じ機構であっても、
どのように腕元で成立させるかによって、
時計の性格はここまで変わる。
それこそが、フライバック・クロノグラフという機構の懐の深さです。
42mmのインディペンデンスクロノグラフ。世界500本限定。スケルトンの文字盤が機械式時計の醍醐味を物語る。
↑美しいラグジュアリースポーツウォッチ、リビエラに収められたフライバック。伝統と歴史を彷彿とさせる文字盤が素晴らしい1本。
同じフライバックという答えを、
異なるかたちで体現した二本。
その違いは、ぜひ WINGイオンモール白山店の店頭で、
ノルケイン と ボーム&メルシエ を見比べながら感じてみてください。